基礎デザイン学科

science of design

冷蔵商店街
山科 友佳莉

冷蔵庫を開けると野菜や果物、魚肉などの食材とともに食品パッケージがひしめき合っている。とりわけ扉に一列に並んだ様は、個性を競うさまざまなパッケージのディスプレイになっている。それはあたかも小さな専門店が肩を寄せ合った古い街並みの商店街のようだ。なるほど冷蔵庫は街を擬態化したものなのだ。食品パッケージから想起される店舗のファサードを一点一点丁寧に描き出す作者のまなざしには、生活への愛情が満ちている。

パラレルスケープストーリー
宮津早

一つの部屋で連鎖的に発生する事柄を6つのアングルから収めた3DCGムービー。全く別の視点から始まる映像は時間が進むにつれ、関連していること、そして一つの部屋であることが分かる。それぞれの映像の関係性の中で何が起こっているかに「気づく」ことを狙った作品である。綿密な計画のもとに構築された作品であると同時に、新しい映像コンテンツの可能性を感じさせる点が高く評価された作品である。

Construction of degeneration
森島 洸

生命の循環過程のうち「退行」に着目した研究。秀逸な点は、退行を以下の3つに分類した点である。
1.Discopy-反反復-:完全には複製され得ないものを何度も複製することで原形が失われていく過程。
2.Deviation-逸脱-:ある変数を与え続けることで、形が特定の方向へと偏向・逸脱していく過程。
3.Deconstruction-脱構築-:構造を壊しながら異なる構造を創造していく過程。
ここでは植物が対象として選ばれたが、植物は生命の隠喩だ。原形とは異なるものになり果てるとしても、それを新たな生成の過程として捉えることはできる。これはその試みの一つである。

わたしはあなた、あなたはわたし。
児玉 京子

暗闇に浮かび上がる細長い矩形の窓の向こうに広がる無数の垂線。それらは糸であり、糸の影であり、壁に描かれた線の集合体だ。鑑賞者は明滅する空間に戸惑い、遠近感を失い、呆然としながら作品と対峙することになる。いま観ている「それ」は虚像なのか実像なのか。しかし確かに眼前の「それ」が目を通して身体に入り込み、身体の闇が外へと溢れ出る。それこそが作者の意図した世界観である。「わたし」と「あなた」が混一する瞬間。

Arcism
冨田 理沙子

本作は、キュビズムならぬアーキズム(円弧主義)絵画である。もつれた糸のような円の集積は一見、なんの絵かさっぱり分からないが、近づいたり遠ざかったり、凝視するうちにイメージが結像されてくる。一度何の絵か了解されると一気に実像が浮かび上がる。「あ、北斎の富嶽三十六景!」、「宗達の風神雷神図かも!」。律動する円は独特のエネルギーを湛えている。絵を理解するまでのモヤモヤした時間も作品の魅力かもしれない。

情けない男
成田 大喜

この作品が生まれるまでは紆余曲折があった。試行錯誤の間に何が今必要なのか、何を表現したいのか、あるいはすべきなのか。ゼミでは毎週意見を交わした。熟慮の上に創作されたのが「未来」だった。この情けないと題された作品を賞するのは、今、この作品が受け入れられている証であり、少なくとも何を表現すべきか、という問いには答えられている。何を表現したいのか、は未だ成田氏の中で進行中なのではないだろうか。また次の作品を期待せずにいられない。

Tokyo Constellation
石坂 明日香

星座は夜空に瞬く星々の「宇宙地図」だ。未知なる世界へと想像を誘う地図装置として、20世紀にプラネタリウムが考案された。現代のそれはGoogle Earthではなかろうか。本作は、天空から見下ろす東京都のコンビニを星座化した。なんという煌めきだろう。店舗が星々を擬態している。かつて人類が星を繋いで星座を創出したように、コンビニの商品が21世紀の星座となった。奥多摩のぽつんと光る星は、そこに確かに人の営みがあることを示している。