基礎デザイン学科

science of design

へその緒|umbilicallet
ショウ コウ

ものを生産する時にできる夾雑物にショウ・コウは着目した。印刷物の裁断の際に出るトンボや色玉のついた「やれ」、3Dプリンターの出力の際に必然的にできる「サポート」、プラスチックモデルの製造における「ランナー」等を取り上げ、これをモノの生成時にできる「へその緒」に見たて、テーマとした。具体的には人間の胎児を生産物として措定した。紙の積層が地層のように重なる中で、胎児の身体のポジに対する「ネガ」としての「やれ」の堆積が見事な造形をなし、3Dプリンターのサポートが胎児と融合してまさに有機的な臍の緒のように見える。この見立ての視点とそれを形に集約する制作の精度が素晴らしい。

言葉を覗く
保科千晶

「やばい」の頻発は語彙の貧困に由来するものと捉えられがちであるが、保科千晶はここに疑問を持った。多くの感情を集約した「やばい」に含まれる微妙な感情のニュアンスを、多数の言葉の束として分類し、自身が感じる多様な「やばい」に対応させた。分類された言葉を、透明の樹脂の塊の中に配置し、手のひらに収まるほどの非対称の多角形として表現した。一部が曇りとなり、一部が透明性を持つ立体の中に、まるで浮遊するように配された言葉の群は、それぞれ異なる心象風景に対応しており「やばい」に含まれる感情の機微が、見事に物体として定着されている。

Is there そこにいる
芹澤碧

白い空間に浮かぶ透明な生命体らしきもの。それらは、脈を打ったり、身をくねらせて伸び縮みしたりと、形を変容させながらその場に息づいている。物体を動かす心臓や筋肉があるかのように見えてくるが、その正体は私たちがよく知っているはずの水である。まるで意思を感じる動きに目が釘付けとなり、じっと見てしまう体験。知っていると思い込んでいるものにもまだ知らない一面がある。その可能性を私たちに示してくれる。

品種改良
弦巻朱音

この制作の発端は作者である弦巻朱音が大きな胸を持つように改良された鳩、ポータを見てショックを受けたことによる。人間は多くの品種改良を行うのであるが、鳥に対して羽毛の利用、愛玩、鑑賞という動機に基づいて品種改良を行なったら?という一種のスペキュレーションと紙の巧みな造形による現実感を通して、人間による品種改良の問題を提起した制作である。

Ch.
水城尚央子

この作品は、作曲家フレデリック・ショパンが生涯を通じて作曲した作品の年表であり、音をビジュアルで表現したアートブックでもある。辞典のような公共性と日記のような私的性の両方を兼ね備え、編集・デザイン・造本を一人で手がけたことで、ショパンに関する豊富な先行研究を踏まえながらも、独自の視点を提示している。また歴史という分野においてデザイナーが主体的に介入できる可能性を実践を通して提示している作品とも言える。