基礎デザイン学科

science of design

Biophilic Blues
宮田 光

藍との出逢いの感動から宮田の研究は始まった。それまでの藍は布を染める染料としてのものだが、彼女の興味の対象は純粋にその青い色だ。地球を形づくる青色が全て凝縮したような藍の力を伝えるため、糸を染め無数の青の表情を重ねた。染料の藍と糸の素性が織りなす奥行きのあるグラデーションによって無限の水平が立ち上がった。染めのプロセスを映した動画からは、生き生きと色が生まれる様子も感じることができる。凄まじいく緻密な表現によって、既知の藍が瑞々しい青として表現された秀作である。

shy cake
鵜殿千世

白くふっくらと丸い菓子が、ほんのり赤面しているように色づいている。正確に言うなら菓子は三種類ある。1:色づいていないもの。2:トップが色づいているもの。3:側面が色づいているもの。これらを、パッケージに詰めるとき、あるいは菓子皿に盛り付けるとき、その様相を意識して配列することによって、微妙な「関係の機微」を表現することができる。物体の距離や向き、そして「赤面」の様相をすぐれて記号的に菓子のデザインに取り込んだ作品である。

半分の顔
石添 輝

マスクで表情の半分しか窺えないペルソナ。それは漠然とした社会不安やコロナ禍の自閉的な生活が相まって、生のエネルギーの発露が乏しい今日の情況を表出している。平穏で淡々とした日常にあって、かすかな痛みやもどかしさを伴って胸中をよぎる不条理感。自己と他者(背景)を隔てる色調は絶妙だ。石添作品にはフランツ・カフカや安倍公房の文学へのオマージュがあり、社会のみならず作者自身を風刺する透徹したまなざしがある。


書の味わい
小山 美有奈

包装された切り身やお鮨のネタは、現代において記号化された魚の一様態かもしれない。
様々な種類の魚の形態、皮や身の色や手触り血合い、匂いや味は、日々の食材として記憶に蓄積される情報である。
本作品はそれらの記号を本の装丁に擬態させたらどうなるか、という試みである。ぬめりのあるヒラメ、どす黒い血合いの荒々しい表情のカツオ、白さの際立つイカ、銀色にきらめく細長いサンマなど、見た目だけなくそれぞれの装丁のテクスチャから体感できる。本と魚の驚くべき親和性が見事に示されていることに驚く。

いきもの発見 ーテクスチャーと色から広がる世界ー
横井 かおり

現実と夢の境界が曖昧だった幼い頃のワクワクする高揚感。作者はやがて美大生となり、子供のワークショップを実施する企画力と、自らが抱いていたその感覚を視覚化する技術を手に入れ、描いたイラストが自分の背丈を超えるモンスターに変態し、夢の世界に誘う様子をコマ撮動画に仕立て上げた。本作品でとりわけ評価すべき点は、登場するマペットの微細な動きと精度だ。それがアニメーションに解像度の高いリアリティを与えている。