ツヤ子81歳
中川 楓子「ツヤ子81歳」
映像制作の中でもとりわけドキュメンタリーというジャンルはとても難しいものである。本来映像のクォリティを左右するはずの予算や役者のレベル、脚本の良し悪し、使用する機材の程度、などの点はことごとく無関係のように出来ていくプロセスがこの映画にある。中川氏の映像は実に素直に題材と向き合っている。祖母の年齢への不思議な違和感のようなものを、残された大学生活の時間を使って、過ごしていくうちに見えてくるだろうと期待を膨らませてただただ記録している。作品を通して答えを見つける事を目的としていない。そこにあるのは2018年に起きた祖母と過ごした時間だけ。気付かされるのはドキュメンタリーというのはまるで上から物を言うようなものではないという事。答えが見つかるものでもない。記録映像というものの純粋なる存在価値をこの作品は謙虚に示している。鑑賞後になぜか私たちは清々しく、キュンとしてしまう。それこそがこの映像が導いた価値と言えるのではないだろうか。
基礎デザイン学科教授 菱川 勢一