基礎デザイン学科

science of design

枝を削る
羽生田 菜緒

枝振りのよい木の皮を太い幹の部分から先端の細い部分まで小刀(ナイフ)で少しずつ削って行く作業は忍耐強く最後まで地道に続けられた。表面にはナイフの削り跡が鉛筆の先のように残っている。そのかすかな無数の削り跡がこの作品の価値を成している。この作品は作者の手によって削られた言わば人工物であるが、人の手というもう一つの自然物によって成し遂げられたことは、自然が自然に戻ったような不思議な感覚を覚える。
(担当教員 深澤直人)

Ex-formation TOKYO
東京小紋
鈴木 萌乃

東京小紋を江戸小紋と対照させることでTOKYOを表現した。江戸小紋は、テキスタイルに表現されたグラフィックパターンであるが、これは単なる幾何学的反復パターンではなく、日常の風物が抽象される眼の巧みさとでも言うか、パターンに見立てられ、昇華される手際の「粋」がポイントである。鈴木萌乃の「東京小紋」への着眼点もそこにある。つまり、現代の東京の文物をモチーフとしてグラフィカルにパターン化するのではなく、モチーフの選定や、それを柄として成就させる際の同時代的な「感性」を、江戸の「粋」と共振させながら、江戸から受け継ぐ文化の遺伝子あるいは、感覚の連繋を確認したかったのではないかと思うのである。
今日の東京の若者の感覚の中にある「伝統」は、電波アイコンや東京タワー、点字ブロックやフェンスの金網を紋様に見立てていく感覚の中にも息づいている。それ故に、風呂式の上で美しい柄として成就することができるのである。
(担当教員 原研哉)

Ex-formation TOKYO
東京迷彩
松原 明香

東京の「迷彩服」を制作している。仕上がった迷彩服を着て撮影されたムービーや写真を見ると思わず笑ってしまう。よほど意識しないと、着衣した人の存在を認識できない。それほど街に溶け込んでいる。戦闘における迷彩は恐ろしげな発想であるが、同じ発想を平和な「街」に振り向けるところに松原明香の研究のユニークさがある。新宿歌舞伎町なら溶け込みがいがありそうだが、世田谷の住宅街に溶け込もうとは普通考えない。アスファルトの舗装路や道路に描かれた文字、味気ない灰色のブロック塀やブルーの住所標識など、リアルな都市景観の要素を冷静に割り出し、衣服の上下にしたたかに配していく。その果てに、見事に世田谷に溶け込む迷彩服ができた。
浅草や丸の内など、選定された場所には納得できる景観的特徴があり、僕らは既に知っていた街の特徴に、不思議な角度から出会わされることになる。初めて一連の衣服や写真を見る人たちに対しても、笑いと理解を同時に誘発するはずで、対象の未知化と理解が同時に進んでいく。
(担当教員 原研哉)

Ex-formation TOKYO
東京脈動
ショウ キン

東京圏の電車の動きをリアルに抽出している。丹念なデータのノーテーションによって、それが見事にヴィジュアライズされている。ショウキンは、平日の朝の8時台と9時台、通勤で最も多くの鉄道車両が稼動している時間帯の時刻表から、動いている電車の数と動きを割り出し、それをモーショングラフィックスとして表現した。中央線や山手線、地下鉄の銀座線など、東京の移動を支える強力なインフラとしての鉄道がまさに脈打つ様をそれは伝えている。ソウルにも、ロンドンにも、北京にも、ジャカルタにも、ニューヨークにもない、異常な複雑さと精密さを持つ東京の電車の運動。この運動こそ、まさに東京という都市の生命感である。一日に70万人を越える新宿の乗降客数は世界一らしいが、これは新宿という街の規模のせいでも駅の規模のせいでもない。複雑に連繋する鉄道網全体の流動性が生み出す量でありダイナミズムである。画像は小さく繊細だが、巨大な都市のダイナミズムを正確に捉えている。
(担当教員 原研哉)