キネティック・ポエトリー

齊藤大介

人間の複雑さに思いを馳せていた。人は喜怒哀楽や様々な思惑を抱えて生きている。理性や法という秩序に従う一方で、欲望や衝動という無秩序なものに突き動かされる。極めて難解で、理解しがたい。理解しがたいがゆえに美しい。あなた自身のことでさえあなたは完璧には理解できないだろう。喜びも悲しみも、決意も葛藤も、本音も建前も、誠実も欺瞞も。そして希望も絶望も。全てを背負い、あらゆる感情に翻弄されても、それでも生きていく人間の大いなる難解さを礼讃したいと思った。

複雑な人間模様が描かれた文学作品、スコット・フィッツジェラルドの「グレート・ギャツビー」を用い、登場人物たちの思惑や関係性をキネティックに表現した。秩序を保つように、文字を組み上げた。混沌を生み出すように、文字を壊した。散りばめられた言の葉が、登場人物の動きに連動するように文字となって立ち現れては溶けてゆく。連綿と続く言葉の応酬の果てに、張り詰めた破片はほつれるように解け、一つの星雲となり、やがて雑踏の中に消えてゆく。長い長い試行錯誤の末に、カオスとコスモスが織りなす小宇宙が生まれた。

10号館403