一節のための装丁

渡邊真生子

自分が何を作るべきか考え続けた四年間だった。あるときふと、自分を支えてくれたものを作りたいと思うようになった。そうして自分の生計が立てられるくらいの力をつけたい。その循環が自分にとって最も自然なのではと考えたからだ。本が作りたい。情報や物語をのせる媒体を作りたい。気持ちが固まってからは、あまり迷っていない。卒業制作としてのかたちも「本」にするということに迷いはなかった。
「一節のための装丁」とテーマを定めた。物語のなかで特に力をもつ部分を抜き出し、一冊分の空間を使ってゆったり組む。なかには、ノンブルや柱などの情報以外にはなにも書かれていないページも存在する。「一節」のもつちからや、本という物体の内包する空間、物語のふくみのような部分をかたちにしたいと思い、このような構成になった。
物語を読んでいて、この一節は私のことだと気づく、というような瞬間があると思う。ここだけは私のものなんだ、と妙に納得する感覚。そんな瞬間を得た経験を大切にして、できるかぎり丁寧に仕立てた。一節を読んで一冊を読んだように充たされるような本になるよう…と願いつつ、一冊の物語を読みきることに越したことはないな、と矛盾する気持ちを抱えながら作った。ただ一貫して、読書の幸福を感じることのきっかけになればと思っている。

10号館413