基礎デザイン学科

science of design

モノの刺身
江田陽子

モノのリアリティを新鮮に感じさせる手法として「刺身」というメタファを用いた作品である。プロダクツをスライスして刺身の「平盛り」の様相で左から右へと並べていく。この規則を、歯磨きチューブ、マッチ箱、防災頭巾、蚊取り線香のパッケージなどなど、見慣れたものに適用している。一見写真のように見えるが、全てアクリルガッシュで描かれた手描きのイラストレーションである。眺めていると、巧みな絵画表現に引き込まれるだけでなく、最後にはこれらのプロダクツを「おいしそう」と感じてしまう。傑作のヴィジュアル・レトリックである。(原研哉)

Pattern Per Heart
坂本俊太

指紋やDNAは死んだ後でも機能する個体識別の指標であるが、心音は、人間が生きている時のみに機能するアイデンティティの指標である。ここでは聴診器から得られる心音の周波数やリズムを解析し、自動的にグラフィックパターンを生成させる装置を作った。できあがったパターンは、スクリーン上のみならず、白い布の上に投影されたり、布にインクジェットで定着する仕組みを考案されたりしている。自分の身体から発するオリジナル情報から生まれるプロダクツの提案でもある。(原研哉)

書影
上原愛美

一篇の小説のテキスト全文を再構成したシルクスクリーンによる版画作品。芥川竜之介や太宰治、ドストエフスキー、カフカなど、よく知られた純文学のテキストが個々の作品の題材として扱われている。文字が本という形式、頁という枠組みから解き放たれ、一枚の平面空間において重層し、また滲んだり霞んだりして、ノイズのような画素して定着した。全体として抽象絵画のような気配の、初めて出会う造形作品として生まれかわった。(板東孝明)

Dialogue of Parts
川﨑萌子

精密に作られた物というのは大きさ以上の重量を持つことに気づかされる。実際の重さではなく、かたちの力が中心に向かって凝縮した存在の重さだ。そして時計の部品は、そのかたちに時を刻む動きが内包されているからだろうか、生き物のように個体の個性を放つ。今にも動き出しそうなかたち達が一本の線の上に整列している様子は、そこに時を切り取ったような静寂を生み出した。時計の内側に秘められた精緻な美しさを開いた作品である。(柴田文江)