基礎デザイン学科

science of design

石を組む
角谷 郁恵

紙の上に何度も色を置き、祈るように制作してきた幾百の「石」。本物に見まごう飛び石は実際に触れるまで紙であるとは思えない出来映えだ。桂離宮に通い、実際に自分が踏みしめた飛び石を一つ一つ丹念に描写するその姿勢はすさまじい。表題の「石を組む」は「文字を組む」からの発想、白い平面に構成されたレリーフ作品を「タイポグラフィ」だと作者はいう。たしかに文字が存在しないからこそ、寡黙な「石」たちの「作庭された意図」の饒舌な気配が横溢としている。
(担当教員 板東孝明)

現象の工作
岡田 美奈子

「現象の工作」は、まるで子供が家族とテレビを見ながらその辺にあるもので何かをつくっているような感覚がある。しかし岡田美奈子は子供ではない。しかし、作家としての工作への着手はまるで子供のように早く、着想に迷いや疑いを持たず、ただ自分が感じたことをそのままかたちにしている。使う材料がボンドやペットボトルを切り刻んだもの、ゴム手袋に絵の具を使ったものなど日用品がベースになっている。岡田は毎回レビューの度に新しい作品を持ってきた。担当教員としては毎回「これは何?」と尋ねないとわからないものだらけだったが、「これはボンドをチューブから出してつくったエッフェル塔」だとか「切り刻んだペットボトルが魚の群れのキラキラのようだと思った」とかいう、「え~~~?」というような答えに素直に驚いた。確かにそう見えるし、そのように作りたかったという着想に濁りがなかった。エッフェル塔に関しては、建ち上がったボンド製の塔がゆっくり垂れ下がっていく様が面白いのだというのだ。ゴムのシートに塗った絵の具が引っ張ることで細かくひび割れる様には驚いた。
何を感じ何を作りたいのかは謎であるが、その思考や発想の謎がアートの源泉になっていることに間違いない。
(担当教員 深澤直人)

Ex-formation ふたり
x-ray portrait
神田 彩子 林 真由香

X線によるポートレイトである。骨格の重なりとしての人間の相同と差異がそこには映し出されていて、ふたりの人間の肖像写真として秀逸な着眼が見いだせる。X線写真を芸術表現に用いた事例は既に多数あり、男女の接吻シーンをX線で撮影した作例もある。しかし神田と林の作品は、肉を透過して骨だけが残るヴィジュアルを前提とした、端的に象徴的な「ふたりの肖像」をとらえるべく、撮影ポーズが綿密に計算されている点で秀逸である。綿密に計画された個体差の露出とでもいうか。特に「双子」の身体の透過的重なりが示す限りない近似と、それゆえに露になる個体的差異に、ポートレイトとしての独創性が示された。放射線量の制限によって極めて限定された撮影機会の中で実行された緻密な制作プロセスは評価に値し、また画像も美しく、こういうものにありがちな技術オリエンテッドな定着水準を超えた、高度な叙情性も評価したい。
(担当教員 原研哉)

甘い靴
岩切 翠

岩切さんの卒制は「食」をテーマにすることからはじまった。デザインのモチーフに「食」を盛り込みたい。気持ちはわかるがテーマが広大すぎた。悶々と考えるうちに、卒制はあらぬ方向へ。「食」の太陽系モデルを制作したい、いろんな食材でピタゴラスイッチのような仕掛けをつくりたい、カップラーメンで盆栽を表現したい。アイデア出しはいいがどうもしっくりこない。作業の手はとまり、振り出しへ。困り果てた末にたどり着いたのが本作品。彼女は靴が大好きだという。好きなものを見つけると矢も盾もたまらず買ってしまう。その理由がユニークだった。リボンシューズやサンダルを見ると、デコレーションケーキを想像してしまう。食べてしまいたい。「それだ!」作業は一気に進み、美味しそうな「靴」に。「食」と「靴」が彼女の感覚のなかでぴったりと一致したのだった。
(担当教員 板東孝明)